介護施設の設計でユニバーサルデザインを意識することは、利用者だけでなく、スタッフや訪問するご家族にとっても快適さの確保に繋がります。
これまで広く用いられてきたバリアフリーよりも、幅広い層の人を対象にしているのがユニバーサルデザインですが、具体的にはどんな考えなのでしょうか?
本記事では、以下のポイントをご紹介します。
- ユニバーサルデザインの特徴
- ユニバーサルデザイン7つの原則について
- ユニバーサルデザインとバリアフリーの違い
- 介護施設におけるユニバーサルデザインの例
ユニバーサルデザインとは?

ユニバーサルデザインは、1985年にアメリカの建築家兼デザイナーであったロナルド・メイス博士が提唱した理念です。
日本においては、「あらかじめ、障害の有無・年齢・性別・人種等に関わらず多様な人々が利用しやすいよう都市や生活環境をデザインする考え方」と定義されています。
参考:障がい者基本計画 平成14年12月24日閣議決定
ユニバーサルデザイン7つの原則

ユニバーサルデザイン7つの原則とは、ユニバーサルデザイン提唱者のメイス博士を始めとしたグループ(建築家・デザイナー・研究者など)によって定められたルールです。
ユニバーサルデザインを設備に取り入れる際は、この原則に基づいた各国のルール、ガイドラインを順守することが求められます。
この7原則を深く理解しておくことは、介護施設のように利用者の安全性や使いやすさが重要視される施設の設計や建設に多いに役立つでしょう。
公平(Equitable use)
誰でも利用できる公平さは、ユニバーサルデザインの根底の考えとも言えるでしょう。
7原則の中では以下の要素をもって公平さを満たす要件としています。
【要件】
- 誰でも同じように使える、または別の方法を用いて公平に使える
- 利用者に差別感や屈辱感を持たせない
- 安心感・安全性を考慮したプライバシーが配慮される
- 魅力を感じる
【実例】
- 自動ドアの設置
- 段差のない道
- スロープやエレベーターの設置 など
柔軟である(Flexibility in use)
利用者の特性、好みなどに合わせてフレキシブル(柔軟)に利用できる要素もユニバーサルデザインにおいて非常に重要です。
【要件】
- 使い方が選べる
- 利き手に関係なく使える
- 正確に操作しやすい
- 個々の特性に合わせて使いやすいように合わせられる
【実例】
- 複数の高さの手すり、高さの異なる台の設置
- 左利きでも使える設計
- 鉛筆やお箸などを正しい指使いで使いやすく設計する
- 性別関係なく利用できるおむつ替えスペースの設置 など
シンプル(Simple and intuitive)
ここでのシンプルさとは、「利用するために特別なスキルや知識を必要としないもの」といった意味です。
【要件】
- (構造や操作方法などを)複雑にしない
- 直感的な操作
- 用語や説明は誰にでも分かるようにする
- 重要度が高い順に整理する
- ガイダンスや操作確認の提供
【実例】
- 大きなボタンやアイコンで直感的に操作できる家電やガジェット
- シャンプーとトリートメントを区別するためのボトルの突起
- 操作について音声案内をする設備や家電製品
分かりやすさ(Perceptible information)
分かりやすさとは、属人的な知覚や読解力に依存せず広い層に情報を伝えられることを意味しています。
【要件】
- 文字、絵、触覚(点字や凹凸を用いたデザイン)の併用
肝要な情報や優先度の高い事項については、視認性を高め、一目で把握できるよう整理いたします。 - 情報を区別して説明する
- 視覚や聴覚に障害のある人にも利用方法が伝わるようにする
【実例】
- ピクトグラムや記号、誘導線の表記
- 日本語と外国語の併記
- 音声案内や点字など複数の伝達手段の導入
- ライトなどを使って目立たせる
安全性(Tolerance for error)
安全性というと、「決して壊れない」「ルールを徹底させる」といった要素が連想されますが、ユニバーサルデザインにおいてはそれだけではなく、誤った使用方法でも危険な状態になりにくいという点が重要です。
【要件】
- 隔離、覆うなどの配慮
- 危険、誤った動作に対する警告
- 誤った動作でも安全に使える設計
- 意図せず注意が必要な動作を行わないための配慮
【実例】
- ポットやケトルなどのマグネット式コード(引っ掛かってもすぐ外れる)
- 作動中に扉をあけると動作が中断される家電(電子レンジや洗濯機など)
- 駅のホームドア
- 駐車場等で出庫する際の警告音やランプ
身体負担の少なさ(Low physical effort)
身体への負担、あるいは影響の少なさもあらゆる人が使いやすい設計を考える時に大切な考え方です。
特に介護施設は様々な状態の方が利用するので、重要な要素だと言えるでしょう。
【要件】
- 自然な姿勢での使用可能
- 使用時に力を必要としない
- 繰り返しの動作が少ない
- 無理な負担が持続しないように設計する
【実例】
- レバータイプの蛇口やドアノブ
- 乗り降りがしやすい低床バス
- かがまずに釣銭が取れるタイプの自販機 など
十分なスペースの確保(Size and space for approach and use)
最後のユニバーサルデザインの原則は、利用時に十分なサイズや空間が確保されているという要素です。
【要件】
- 身長や高さに関係なく視認性が確保されている
- どの高さの人でも手が届く
- 手や握りの大きさへの対応
- 補助具、介助者のためのスペースがある
【実例】
- 駐車場の優先駐車スペース
- 多機能トイレ
- 座席のない空間を確保した車両(電車・バス・タクシー等)
ユニバーサルデザインとバリアフリーの違い

ここまでユニバーサルデザインについて解説いたしましたが、「バリアフリーとユニバーサルデザインて似ているな」という感想を持たれた方もいるのではないでしょうか。
特に介護やケアにおいては、この2つは混同されやすいかもしれません。
しかしユニバーサルデザインとバリアフリーには、大きな違いもあります。
・バリアフリーとは?
バリアフリーとは、高齢者や障がいを持つ人が社会で生きていく上で障壁(バリア)となるものを取り除く(フリー)ことを意味します。
この場合のバリアとは、段差などの物理的なものだけでなく、心理的・社会的・制度的なものも含まれます。
バリアフリーはあくまでも高齢の方や障がいを持つ方など、特定の人を対象とした考えであると言えるでしょう。
また、特定の人を対象にしているため、利用する層やバリアフリー製品の市場規模が限定されるという問題点もあります。
・ユニバーサルデザインとは?
一方、ユニバーサルデザインは明確な対象者が定められていない、包括的な考えです。
年齢・性別・人種・障がいの有無などで区別せず、あらゆる人にとって使いやすく安全で分かりやすいことを前提としています。
年齢や障がいの有無に関わらず、けがや災害、育児などで誰しも助けを必要となる機会が訪れ得る、という考えが根底にあるため、特定の人を対象にしていないのです。
ユニバーサルデザインは幅広い人を対象にしているため、市場性も重視されます。マーケットが拡大し、経済活動が活性化することでよりすぐれたデザインや製品の登場も期待できるでしょう。
つまり、「ユニバーサルデザインはバリアフリー的な考えを内包し、より幅広い人の社会的公平性を担保する理念」と言えます。
介護施設におけるユニバーサルデザインのアイディア例

こちらでは、特に介護施設におけるユニバーサルデザインの事例やアイディアをご紹介します。
手すりの設置
介護施設におけるトイレや浴室への手すり設置は以前より一般的ですが、単一の設置では利便性に欠ける場面も少なくありません。利用者の身体状況によっては、動作の際に無理な負担を強いてしまう懸念が指摘されてきました。
そこで、複数の位置に手すりを設置することで、車いすの方、杖をついている方、体格が異なる方でも使いやすくなります。
また、介護施設においてはスタッフがトイレや入浴を介助することも多く、ユニバーサルデザインを意識した手すりの設置は介助者の負担軽減にも繋がるでしょう。
可動式の設備
高さが変えられるベッドやテーブルなどの設備を導入することも、ユニバーサルデザインに基づいたアイディアの一つです。
たとえば、食堂や共有スペースなどは、様々な状態の方が利用します。
テーブルを可動式にすることで、車いすを利用している方や様々な体格の方も快適に利用しやすくなります。
介護施設のユニバーサルデザインの事例
THE LABOでは、これまで多くの介護施設やグループホームの設計を担当した実績があります。
ユニバーサルデザインを意識した当社の設計事例をご紹介します。
中島看護小規模多機能・有料老人ホーム「THE MARINA」

グループホームあいの街浅田

まとめ:ユニバーサルデザインを意識して利便性・安全性を上げよう
ユニバーサルデザインは、年齢・性別・人種・障がいの有無に関わらず多くの人が安全で使いやすいデザインのための考え方です。
今回ご紹介した介護施設やケア施設はもちろんのこと、公共施設、駅などの公共交通機関、文房具、家具家電など様々な分野でユニバーサルデザインが取り入れられています。
THE LABOでは、介護施設やグループホームの設計・建築において豊富な実績を積み重ねてまいりました。単なる箱物としての建築ではなく、スタッフ様の動線効率と利用者の皆様の自立支援を両立させる「次世代のケア空間」をご提案いたします。開設にあたってのデザインコンセプトから、現場の安全性を高める細やかな仕様策定まで、専門家ならではの視点でサポートいたします。
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